部屋の隅

↑サン・マルコ広場の鐘楼より。あぁ、イタリアへ行きたい…(内容はイタリアと関係なし)。
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矛盾
えー、本日はお集まりいたただきましてありがとうございます。
みなさんこうして今日ここにおられるということは、とにもかくにも「自己矛盾」ということについて関心がおありなのでしょう。えぇ、本来ならばゆっくりと時間を取ってお話し申し上げたいところですが、本日のこの現代病についての講演会、分刻みで講演の予定が組まれておりまして、進行上一人あたりの持ち時間が非常に短い。こうして裏事情のお話をしている間にも非情なもので、時間は刻一刻と流れております。それではさっそくお話に。

私も長い間医者…いや、私の場合医者というよりも何て言うんでしょうかな、今でいうところのカウンセラーというやつでしょうか、多少意味合いが違うところもございますでしょうが、そういったものをしてきたわけです。昔は「電気のヒモがいつまでも揺れている」だの「水道の蛇口から水滴がこぼれ落ちるのが気になってその場を離れられない」などといった神経症的な相談が多かったものです。そういった悩みというものは今に比べると対処しやすい。多くは単なる精神上の疲労の蓄積であり、悩みの本質が内にあるものの、それが外に何らかの形で現れる。えぇ、一見厄介だなと思えるようで単純明快なわけです。時には雨が降るのが許せないといって発狂寸前の者もいたりしましたが、受け止め落ち着かせれば済んだのです。理論的な説得は必要が無かった。うけとめ、落ち着かせるというのが私のルーチンワークというものでした。

しかし、最近になりまして何やら事情が異なってきた。私のところへ来てもただ黙っている。私としては聞くことに重点を置いていますから、さてどうしたものか。どうやら共通しているのが、自分がこの場にいることについて非常に恥ずかしい気持ちをもっている。誰かに見られてはいまいか、ここに来たことが漏れないかということが気になっているんですな。こういうときは長丁場です。時代に共通して、焦りは災いをもたらしますから。さて時間をかけてもかまわないという姿勢を見せると少しずつ口を開き、ポツリポツリと話しはじめる。そうした話を要約すると彼らの悩みは次のようなものです。つまり、外部で形成された自己のイメージに苦しんでいるというわけです。それゆえ、彼らが私のところへ来たとき、それが態度に表れるわけです。私はこのようなところへくる人間ではないと。外部でイメージが形成されるには自身の何かが反映されているはずです。したがってそれが本人の思う本人と完全に乖離しているなんていうことはありえないのです。が、彼らはそれを許せない。私は私の思う私でなければならないというのが彼らなのです。

世間ではよく二重人格ということを自己申告する人がいますが、自分で主張する二重人格などありえません。内的な自己と外的な自己の間の接触不良、それが二重人格なのです。ですから私たち医者−えぇあえてここでは医者と呼ばせてもらいます−による対処が必要なわけですが、医術が確立されているわけでありませんで。私としましても、ただその内と外の矛盾を肯定する方向に導くしかないのであります。本人がそれを肯定すべきものとして認めるのを少しでも手助けするのが今日的な私たちの使命なわけです。手助けするとは申しましたが、何かにつけ彼らは理屈詰めで反発する。自分の姿勢を変えることまでも許せないのです。えぇ、これは困ったものでしてね。苦労するのですが、私としてはただ地道に向き合っていくしかないわけであります。

さて、人間が多様な面を持ち合わせていることについて、かのゲーテはこう記しております。
「少年のころは打ち解けず、反抗的で、青年のころは高慢で、大人になっては実行に励み、老人となっては気軽で、きまぐれ。それでも君の墓石にはこう記されるであろう。『たしかにそれは人間的であったのだと』」

現代においては三島由紀夫先生も論理一貫した人間よりも矛盾に溢れた人間の方が人間味に溢れ、魅力的であるとおっしゃっています。つまり理論整然とはいかないので人間なのです。こうでなければというのは人間性への反発に他なりません。ですからみなさんも、何か自己の矛盾をかかえていらっしゃるならば、それが人間というものだという大局的な見地に立たれ、それを肯定していくこと心から願うばかりであります。矛盾は排除すべきではなく肯定すべきものであります。

それでは次の者の講演が迫っているようですので、私の時間はこれで終了とさせていただきます。ご静聴感謝申し上げます。


と、思いつきのこんなネタ、いかがでしょう。
10:39 | 妄話 | comments(0) | trackbacks(0)
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